3月の不動産屋に紹介された部屋の日溜まりと外の風景
はじめ

 常口アトムの綺麗なお姉さんにアパートの一室を紹介され連れてきてもらった
 3月は雪解けが激しく 道路はぐちゃぐちゃで いたる屋根から水滴がこぼれ落ちていた
 西日が部屋全体に入ってきていて 大きな日溜まりができていた その中に入って部屋を説明するお姉さんの目は茶色く透けていて 茶色い髪の毛は神秘的に見えた
 僕は日溜まりに入ってお姉さんの瞳を見ると不思議な世界に入ったように思う
 僕はお姉さんの顔にばかり見とれていてお姉さんの話は全く聴いていなかった いけない と思うと 素敵な幻惑と大きな日溜まりが消えていき 元の綺麗なお姉さんに戻っていった しかし美貌は変わらぬままだった
 「この物件にしますか?」と彼女に聞かれると僕はあの日溜まりの印象が強かったのか 「はい! お願いします!」と即答してしまった あっ と思った時にはもう遅く 家賃が予定より少し高かったので僕はたじろいだが まぁやりくりすればなんとかなると思って再度「お願いします!」と頼んだ
 僕は綺麗なお姉さんに「即日入居」を申し込んで 部屋の鍵をもらった 彼女が去った後 僕は鍵を宙に投げたりしてもて遊んでから 再び西日が出てきて射してきたワンルーム分の日溜まりに入って大の字に寝転がりながらじっくりと浸かった
 僕は雲の上を流れているような気分になった 家具なんかは明後日にならないと届かないから(一番安い引っ越し屋に頼んだのだ) 僕は 布団ぐらい自分で持ってくれば良かったなと思いながら横向きになって眠ろうとした
 すると屋根を伝って落ちてきた水滴が僕の眠りを妨げた 起きて外を見てみると 僕の知らない街が斜面に沿って数え切れないぐらい立ち並んでいた 僕はその光景に一瞬にして心洗われた 米粒みたいな家の一軒一軒が今にも動きだそうとしていて 海まで続いていた 白い太陽が眩しかった
 僕はこの街で新たにやっていけるのかどうか考えてみた 窓から見たあの光景が脳裏に焼き付いていて 再び日溜まりに寝転がった僕はしばらくの間眠れなかった 微かな頭痛があった 僕はいつしか眠りについた
 気が付くと僕は暗闇の中に浸されていた 冷たい空気が窓の隙間から入ってきて部屋中に充満していた 寒気がした 暗闇の中を立ち上がると 外の景色を見た 一つ一つの家に明かりが灯っていて 窓を開けると街の喧騒や騒音や蠢きが聞こえてきた 冷たい風が吹いてきて僕は烏が鳴いているように聞こえた 僕は暫く景色を見ていた 灯台が空を切って海を照らし 船が微かに聞こえる汽笛を鳴らして港に入ってきた ここの物件は本当に景色がいい
 僕は窓を閉め 壁にもたれながらあのもう触れることのできない日溜まりを名残惜しく思い出し床を撫でた もう床は冷え切っていてとても横になって眠れる状態ではなかった それでも僕は仰向けになり両腕を頭に組んであの常口アトムの綺麗なお姉さんと日溜まりと外の風景を思い出した 僕は安心した気持ちになり 汽笛の音をずっと聴いていた


自由詩 3月の不動産屋に紹介された部屋の日溜まりと外の風景 Copyright はじめ 2007-05-09 00:02:07
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