出来損ないの太陽が地上に墜ちてくる惑星にて
楢山孝介
フワフワと昇っていった太陽が
正午を待たずにフラフラと墜ちていくと
祖父は老人の特権を振りかざしてぼやく
「昔の太陽はこんなものじゃなかった」とぼやく
かといって、一日中大空に君臨し
見事な夕焼けを残して西の空に太陽が沈んだ日に
それを褒め称えるようなことを祖父はしない
それはちょっとずるいよな、とわたしは思う
「昔の太陽はどんな風だったの?」とわたしは訊く
そう言うと祖父は喜ぶので、何百回と訊いてきた
祖父の話は二言三言で終わることもあれば
宇宙の始まりからの長い長い話をすることもあった
いくら老人とはいえ、そんな昔のことを
どうして知っているのかと訊くと
「昔は本に何でも書いてあった」と言う
本というものは、今では一冊も残されていないし
書くという行為を祖父はわたしに教えてはくれない
「書いても哀しくなるだけだ」と祖父は言う
哀しいとは何かと訊くと、祖父はいつも
「そのうちわかる」と答える
「そのうちわしも死ぬ」と付け加える
「そのうち」がいつまでもやってこないので
わたしは祖父の言葉を全部は信じられないでいる
死とは何かということも理解出来ない
墜落した出来損ないの太陽が
遠い大地を燃え上がらせている
「あれが死だ」と祖父は言う
もちろんわたしは信じない