出来損ないの太陽が地上に墜ちてくる惑星にて
楢山孝介


フワフワと昇っていった太陽が
正午を待たずにフラフラと墜ちていくと
祖父は老人の特権を振りかざしてぼやく
「昔の太陽はこんなものじゃなかった」とぼやく
かといって、一日中大空に君臨し
見事な夕焼けを残して西の空に太陽が沈んだ日に
それを褒め称えるようなことを祖父はしない
それはちょっとずるいよな、とわたしは思う

「昔の太陽はどんな風だったの?」とわたしは訊く
そう言うと祖父は喜ぶので、何百回と訊いてきた
祖父の話は二言三言で終わることもあれば
宇宙の始まりからの長い長い話をすることもあった
いくら老人とはいえ、そんな昔のことを
どうして知っているのかと訊くと
「昔は本に何でも書いてあった」と言う
本というものは、今では一冊も残されていないし
書くという行為を祖父はわたしに教えてはくれない
「書いても哀しくなるだけだ」と祖父は言う
哀しいとは何かと訊くと、祖父はいつも
「そのうちわかる」と答える
「そのうちわしも死ぬ」と付け加える
「そのうち」がいつまでもやってこないので
わたしは祖父の言葉を全部は信じられないでいる
死とは何かということも理解出来ない

墜落した出来損ないの太陽が
遠い大地を燃え上がらせている
「あれが死だ」と祖父は言う
もちろんわたしは信じない


自由詩 出来損ないの太陽が地上に墜ちてくる惑星にて Copyright 楢山孝介 2007-05-08 10:11:15
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