春金魚
佐野権太

確かめるように差し出した
金魚引換券は
手のひらの熱で
もう、よれよれだ

  (ううん
  (いちばん小さいのがいいの
  (だって
  (いちばん大きくなるでしょう?

わがまま言ってすみません
金魚のおじさん、にっこり笑う

ビニールの袋
ゆらして
赤い金魚
ゆられて
ふいに、立ち止まる
さかみち

  (きんぎょって
  (すぐ、しんじゃう?

田んぼで育ったやつだから
丈夫なんだって
おじさん言ってたろ

あんしんした鼻先で
冷たい滴をすくう

  (このこ、女のこだね
  (だって、ほら
  (ひかってる

そうだな
おまえと一緒だ

金魚ゆられて
おまえもゆれて
手のひらは湿ったままで





自由詩 春金魚 Copyright 佐野権太 2007-05-08 09:51:15
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