穏やかな夕暮れ
たもつ


駅のホーム
喫煙コーナーのベンチ、夕暮れでは少女が
メールを打つ少女
メールを打っている

少女はメールを打つ
指、その速度の指で
穏やかな夕暮れ、穏やかな煙
少女よ、今、僕はカフェにいる、オープンカフェ
この季節、ホームには色とりどりの列車がやってくる
そのすべてに乗ることもせず
少女はメールを打つ
メールを打つ少女
僕は今、昭和基地で起点と終点の距離を測量しているよ
もしかしたらそれは僕のとんだ勘違いかもしれないが

さて、少女である
メールを打つ少女
少女はメールを打っている
その少し開いた唇の端から次々と記号はこぼれだして
世界の隙間という隙間を丁寧に埋めていく
応答せよ、応答せよ、ディスプレイ、ディスプレイ
少女よ、打っているのは
いつかの顔文字
いつかのありがとう
いつかのさよなら
少女よ、僕はメールを打たない

僕が打つのはメールではない
僕はメールを打たないのだ
いつかの顔文字
いつかのありがとう
いつかのさよなら
応答せよ、応答せよ、色とりどりの列車
少女よ、メールを打つな!

見てみるといい、そう、もう誰もいない
誰もいない、いるのは
メールを打つ少女以外の人
そして僕以外の人
穏やかな夕暮れ、すべてのもの






自由詩 穏やかな夕暮れ Copyright たもつ 2004-05-04 15:39:12
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