サナギ一年分
ふるる

懸賞好きの母が
手当たり次第に応募している懸賞が当たった
「サナギ一年分」だそうだ

当然母は家族からさんざん責められた
そんなものが一年間も毎日送りつけられたらたまったものじゃない
特に、虫嫌いの姉は発狂せんばかりに反対した
「こんな家出て行ってやるー!」と言う
姉は今年三十六にもなるからいい機会じゃないか、と
家族全員が思っていたが口には出さない

とうとうその日が来た
郵便配達員が、胸ポケットからサナギを出して
ここに判子を下さいと言い
それからそっとサナギを置いていった

「大きさからして蛾のサナギだろう」と言うと
姉はまた発狂しそうにわめいた
そしてスーツケース三つ分の荷物をまとめると
お世話になりました、と後も見ずに出て行った

姉のいなくなった部屋に、とりあえずサナギは置かれた
「何のサナギかしらねえ」と
実は虫好きの母はわくわくして言った

サナギがかえったら、狭い部屋で飛びすぎて羽を痛めるかもしれない
「窓を開けておきなさい」
と父

末の弟は反抗期だから、喋りたくても喋らない
けれども夜中にこっそり
砂糖水を入れた小皿を部屋に入れていた

母が仕込んだビデオにばっちり写っていたらしい


そんなことも、今はいい思い出だ



自由詩 サナギ一年分 Copyright ふるる 2007-05-01 14:12:22
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