そのまま僕になっていく
たりぽん(大理 奔)

右のポケットに
湿ったままのハンカチ
トイレのドライヤーで乾かして
にわかに水蒸気は生まれていくが
それは霧でもなく雲でもない
つまり、僕のポケットには
虹は入っていないという事

エントランスから駅のバス溜まり
小さな湿りは缶コーラのこぼれた痕
穴からそびえる街路樹を揺らす風に
閉じた輪が、ひたすら縮んでいく
いつの間にか奪っている事を忘れて
散水車が中央分離帯に水をまく
聖者だ、まるで聖者のようだ

太陽よりも反射がまぶしいので
ハンカチを持ったままの手で
敬礼してみる
ドライヤーは二日酔いの息
小さな布きれから感じる
森や海では知らなかった匂い
今住んでいる、この世界の

  夜、暗がりと水銀灯の中で
  仄明るく掘り起こされる
  世界に施された化粧を
  はぎ取る
  それは暴力ではなく
  荒々しい息づかいで
  穴からそびえる街路樹の根本
  小さな湿りを左手でぬぐい取り
  交換される体温で知る
  自分のぬくもり

存在を証明しない
優しい言葉は信じない
左手を探したりもしない
ひたすら蒸発しながら
左手はポケットの中で
握ったまま、放さない
閉じた輪の内側で
左手でありたい
左手になっていきたいと
小さな湿りを
生み出しながら






自由詩 そのまま僕になっていく Copyright たりぽん(大理 奔) 2007-04-30 15:53:24
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