執着ジュース
ブルース瀬戸内

ジュースが飲みたい。
そう言って男の子は歩いていきます。

ジュースがいよいよ飲みたい。
そう言って男の子は少し汗ばむ五月晴れの中を歩いていきます。

ジュースが飲み干したい。
そう言って男の子は小高い丘を登っていきます。
歩いていると、目の前に青空が広がる傾斜です。

ジュースを一滴でも多く飲みたい。
そう言って男の子は丘の頂上に差し掛かります。
丘の向こうにおばあちゃんの家があります。

あらゆるジュースを我が手中にしたい。
男の子は大人びたことを言いながら頂上を越えていきます。

さりとてジュースに隷従するわけではない。
男の子は子供らしくないことを言いながら、
加速しながら坂道を下りていきます。
加速して加速して、
いつしか男の子は手を大きく振って走りだします。

万国のジュースよ、結集せよ。
男の子はスピードにまかせて奇天烈なことを言いながら
坂道を走り抜け、勢いでおばあちゃんの家を通り抜けてしまいます。

ジュースよ、とっくに君の目前に私はいるのだよ。
男の子は勝ち誇ったようなことを言いながら、
道を戻っておばあちゃんの家に着きます。

おばあちゃんは家の前まで出てきてくれて、
「ノド渇いたやろ」と牛乳瓶を僕に差し出します。
「ジュース・・・より牛乳が好き!」
と男の子は言い切って、牛乳瓶を受け取ります。
男の子は少し苦い顔をして牛乳を一気飲み干して
白いヒゲを作って
青い空を見上げます。
何かに執着しないように
青い空を見上げます。

おばあちゃんが微笑んで、
男の子をじっと見ています。


自由詩 執着ジュース Copyright ブルース瀬戸内 2007-04-27 21:34:02
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