永遠と一日
有邑空玖



「明日の時の長さは?」


風を切って走る
スカイラインの窓越しに見えた
雲の名前が思い出せない


春の終わり
もしくは
夏の始まり
駆け足で過ぎていく短い季節に
朝早く家を出て
9号線を北上する
歌うように上げていくスピード
流れる景色に気を取られながら
海を目指す


 ソーダ水の泡が弾けている
 蝉の声が耳の奥で谺する
 あの夏は本当に暑くて
 たぶん夢だったんだと思う


見慣れた港町の
色褪せた看板
開店休業状態の金物屋で
錆びた螺子を分けて貰う
がらくたばかりだ、
と云ってきっと君は笑うだろう
胸が痛いよ


陽差しばかりが強くて
風はまだ夏になりきれない
空も海も青に染まって
じっとその時を待っているのに


 蝉時雨に掻き消されて
 君の声が聞こえなくなる
 「明日の時の長さは?」


スカイラインの窓越しに美しい空
思い出せない雲の名前
風は潮の匂いを運んで
いつまでも記憶から消えないまま
永遠に連なる一日を過ごしている


 「明日の時の長さは?」
 君が笑う
 「永遠と一日」







            
テオ・アンゲロプロス監督「永遠と一日」より
            初出:鳥かご朗読会にて朗読
  


自由詩 永遠と一日 Copyright 有邑空玖 2007-04-26 22:39:25
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