古蝶石涙
砂木

早朝の五時から受け付けをする
眼科の玄関の前には
五時前から人が並ぶ

診察は八時からだけど
みんな 少しでもはやく見てもらって
仕事や生活に戻ろうと
ガラス戸が開くのを待っている

なかには 知り合いと偶然一緒になり
体の調子の事
家族の事を話している人達もいる
車が 眼科の前の道路に増えていき
眠い目などしていられないような
気迫が あたりにたちこめる

おらえのな みでもらうなだ

年配の男性が
一緒に待っている人達にいう

おくさん 退院してがら なんとだ?
知り合いのような人がたずねる

あんたもんだべ
今日は 午前中は仕事で 昼から医者通い
医者さ連れで行くのが仕事みでんたもんだ
んだのもしょうがねべ
おらえのな に死なれだら困るもの

ざわざわと 頷いたり励ましたりしてる
病気と闘うのは 病人だけではないから

部活をやめられないのか
という先生

やめません
という 高校生

なぜだ

部活で高校に入ったんです
辞められません

そう か
でも 将来の進路は よく 考えるように

頷く 女の子

こちらに お座りください
てきぱきとした指示が 聞こえる
薬の説明をします

歩けるだろうか あの子
でも 歩いて行く
ただ 歩いて行く

空気が冷たい 五時
電気がついて ガラス戸が開く

番号札を診察券にクリップでとめて
診察券入れに入れる

自動販売機のカフェ・オレの
ホットを 右手に つかむ

 





自由詩 古蝶石涙 Copyright 砂木 2007-04-23 23:30:01
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