距離

遠い
遠い言葉が
この近さで生まれる
形を変えていく音の
はじまりが揺れ続けて
廊下に落ちていた
誰かの笑い声を思い出す


+


夕暮れが残る夜
潜みの中の湿った皮膚へ
そっと 息を送ると
乾ききっていた声が
わずかな色を持って
指先まで伝わってゆく
溢れることのない
内側の世界で

いつも この近さで


+


外を眺めるのをやめて
一日、と呟く

窓は固定されているから
いつまでも皮膚は湿ったまま
触れるということを知らない

反響音の重なりが
小さな部屋を覆って
行くあての無いままに
鋭さを増してゆく


+


その目を見ることができないまま
誰かはいつまでも誰かだった

眠らない静けさの中を
床の冷たさが伝う
空気の振動が伝う
何もかも伝わってしまう

半分の体で壁際に転がり
天井を見上げるこの目に
たくさんの手のひらが、見える


+


なんだか笑ってしまった
それは定期的に起こる出来事で
その度に記憶を手繰り寄せることになる

やがてはどこかに落下して
張りつめた音を立てる
誰かの笑い声、と
滲むような朝

その距離が
今 はじまりのように、遠い



自由詩 距離 Copyright  2007-04-23 23:25:26
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