海沿いのまち なみ
水町綜助

今歩いているこの路地が
たとえば海沿いにしかれたひそかな町の
その奥に抱かれた狭い路地だったとして

世界一小さいという砂粒が
つもって出来た町だったとして

もうあと何件かの民家を越えれば
夜の暗さのために線がぼやけて
そのせいで夜空を陸に打ち寄せてしまう
間違いの海岸がそこにあったとして


夜に青白い
スプリンターのバンが一台
僕が一つ
 が一人
砂粒が何粒も
波の音に舞っている
松林のさざめきに流されている
さまざまなものに風は当たって
はねるから
僕たちは砂は
弧を描いたり
不意に落ちたり昇ったりして
あたりをうろつくように
黒い海べに浮かんで
それだけをしている

ここから
どうする
などと聞くことはなかったし
それがよかった
それがよくて
うろついていた

嫌というくらい繰り返している

いくらわからないからって
空ばかり
打ち寄せるな
間違い続けて


  *


ほんとうは
まちがってなどいないなんてことは
わかっていた
そう言ってしまって
きりきりとした砂であったと
言って
綺麗でいたかった
のだろう
馬鹿だってわかる


  *


「二千七年四月らしいよ」
「知ってるけど」
「千九百九十九年のほうが」
「未来的だったよね」
「いまはなんかまぬけな感じだ」
「ああ」
「ゼロがふたつはいってるからね」
「そりゃあ」
「………」


  *


二千一年
…二本立ってたでかいアメリカのビルに
飛行機がつっこんでった晩に
 は誕生日とかで
二十三になって
同い年で
その三日後に僕と
藤が丘のバーで酒飲んで
消防士としゃべって
関係ないなこれは
その後初めて一緒に眠って
翌朝
いや
寝すぎて昼下がりで
窓が開いてて
カーテンが翻るすきまから
日当たりの悪い部屋のくせに
夏くさい橙色が射し込んでて
九月が揺れてやがって
蝉が鳴いていて
ソーダ水が飲みたくなって
そんなもんないよ
わかってるよ
ただ泡がふるえてるだけだよ
買ってくるよ
坂下りて
スーパーマーケットで
おりたところの

愛知県名古屋市名東区とある天国みたいな名前の町その1丁目
馬鹿みたいにちっさいアパートの
ドアを開ければ
夏の熱気がなみなみと注がれていて息も出来ない
五段くらいの短い階段を降りたら
金色に抵抗もせずに
照らされきった道路があって
一番焼けきったところに
一口含んでスプライトを垂らして
はじけて
乾いて
べたついて
そしてほっておいた

いま
蟻が歩いている

ひからびた
名前を
顎でくわえて
持っていったから
ない

季節が何個も変わっていく
炸裂する平静の中で
その白くちぎれる砂粒の中で
変わってゆく
遠く車の走る音が
繰り返し打ち寄せて
間違えて
 は消えたままで
季節が何個も変わっていく
波間で






















自由詩 海沿いのまち なみ Copyright 水町綜助 2007-04-23 10:19:04
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