葉桜の下、一度きりの。
佐々宝砂

俺はあいつが嫌いだ
はらはら散る桜と同じくらい嫌いだ
もっとも俺は
ぼとんとみっともなく落ちる椿も嫌いだが
だって考えてくれ
生首に潔いもクソもあるか
ぼとんと落ちようが未練たらしく落ちようが
落ちたあとは腐るだけだ

年の差がどうとか
バカバカしい話はぜひともやめてくれ
手をつなぎたかったら
俺に見えないところでやってくれ
おめでたの話なんかは特に
俺に全く聞こえないところでやってくれ

あいつはクソで
俺はクソ以下なんだと思うが
それでも
今は春で
菜種梅雨の晴れ間で
山桜の葉の朱が映える
今この瞬間この青空を共有してるのは
あいつとあなたじゃなくて
俺とあなただ

こっちを見てくれ
一度きりでいい
俺の手に触れてくれ


自由詩 葉桜の下、一度きりの。 Copyright 佐々宝砂 2007-04-22 23:17:44
notebook Home 戻る