春の鼻
はらだまさる



四八しはち、三拾余の
せかいが破裂音と共にきえた
乱擾らんじょうのあかつき


辻斬り紛いの刃はこぼれ
鎧の傷口を匂う、
おぼろな自死


新聞ではバグダッドの
スラム街と市場で起こった
テロルの惨劇を知る


現場から放射状に肥大する
概念と存在の涙腺からは
慟哭がながれ落ち


夜露をせおう草や
のびた陽さえも
いのちを喰う、と云うことを知る


呑みこまれた星ぼしの母よ、
こらえずになけば良い
庭の雀も啼いている


物干し竿に吊られた木綿の布と
路上を、墨塗るように
雨筆がなぞる


なぜ他人の死に心痛むのか、と
考えあぐね、顎を摩る指先で
独善と自責の弧を描き


弁証法のその先は
八百万やおよろずの神々も
沈黙なさる


なんと云う無力さ、
私はいまも斯うして
へそのうえ


女の
臍胡麻の
匂いを嗅いで


生まれ来る
いのちを
待ち侘びている


山吹のような
芳香の
臍のうえで



















※乱擾…らんじょう。乱れ騒ぐこと。
※辻斬り…つじぎり。武士が刀の切れ味を試し、また武術を磨くために、夜間、路上で行きずりの人を斬ったこと。また、斬る人。江戸初期横行し、幕府は禁令を出して引き回しの上死罪とした。


自由詩 春の鼻 Copyright はらだまさる 2007-04-19 21:20:46
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