雨の犬
藤丘 香子

君は
君の家に入らない

雨が降っているというのに
軒下の風を嗅いで前足を舐めている

私の上には屋根があるので
髪に降るよりも
雨は、
硬質な響きで
音の羅列を渉っていく

滲み込んでいく土に
水溜りの不在を望み
遠い太陽を入れた私が震動する

夕陽を知ろうとすれば
朝を迎える度に静脈を広げ
祈ることは時に願いに変わり

雨の上に新しい雨が降り
風は様々に形を現す
既に夜の匂いの中で

( 私たちに関して、その姿は明滅ごとに
密接に迎え入れられている
日々の上に、
暮らしの中に、)

水の、
芽生えはじめた滴は次第に近づいてくる
雨は、よく響き
雨音が私を象りながら落下していく

壁一重を隔てた対流が窓で跳ね返り
透き間を探し
感覚の落差が居場所を求め
混じり合い
呼吸し
一枚の葉が露を抱いている

( 朝陽に混じっていくための渇望
繰り返す過程に
その過程に )

対話する
抱擁の静けさ

( 開かれる雨の先の、
打ち続ける音の向こうの、
雨は、雨のままに
虹は、虹のままに )

雨がうまれるということ
太陽は生きているということ
名を望まない素粒子があるということ
虹が架かるということ

雨の犬
いま見ているものが既に過去だという事を
君は知っているのかもしれない

共にある君の
小さな鼻先を翳める雫は柔らかく
細くなった雨は
まもなく止むだろう

君は、
君はとても上手に眠る






自由詩 雨の犬 Copyright 藤丘 香子 2007-04-18 12:38:16縦
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