霧雨
水在らあらあ






霧雨で
全部言ったら霧雨で
それは何千日っていう僅かな
俺たちの
永遠で

霧雨に緑は映えて
おまえの瞳の緑は映えて
そんなに静かに
生まれたての春の花々のように
顔を上げて
じっと 微笑んで

すべてが濡れて
すべての音が止んで
カモメたちも黙って
俺達は色んな匂いを
音楽のように感じて

こうしてじっとしている中で
霧雨の中でずっと
じっと離れて濡れている中で
お別れを するんだね

色んな匂いの中に
もう一つ新しい匂いが混ざって
それは濡れたおまえの頬を流れる
一筋の悲しみで

その霧雨に映える緑を閉じないで
長い睫で隠さないで
果てしなく冷酷な海に出る前に
その緑でもう一度抱いて

そこが帰る所だって言って
そこにしか俺は帰らないんだって
そんな嘘を
貫いて決め付けて

やっとアカシアが咲き始めた
海沿いの崖の上で
霧雨の中で
こんなお別れをするのは
俺達に似合って
くだらなくて

俺はね
実はね
おまえのその緑の中で
ずっと遊んでいたかった
海になんて出たくなかった
森の動物たちの一員として
月夜にコンサートとかして
おどけて
楽しいふりして
ずっとおまえの一番柔らかいところを
くすぐっていたかった

霧雨に愛されて波頭が砕ける
それはきらきら笑いながら散ってはじけて
さよならを
笑いながら散ってはじけて

いっせいにカモメたちが舞い上がる
ものすごい叫びだ
おまえの頭が俺の胸をついて
おまえの叫びがカモメたちの軌道を狂わせて

(行かないで
 行かないで
 一緒にいて
 一緒にいてよ

 行かせるな
 行かせないで
 一緒にいよう
 一緒にいようよ)

おまえの帽子が舞い上がって
俺はそれを追いかけて
アカシアに右肩をぶつけて
帽子は崖の下に消えて

追いかけるな
お前も海に消えるぜ
遠い国から
もっときれいな帽子を贈るから

追いかけるな
追いかけるな
遠い国から
もっときれいな霧雨を送るから

カモメたちが叫んでいる
波は笑って砕けて
おまえを抱いている俺は
おまえ以外
この世界で
本当のことを
知らなくて

生まれた国が
おまえの金髪が
俺の黒髪が
おまえの緑の森が
俺の茶色い銀河が
横浜のカモメが
公園の孔雀が

何だっていうんだ
何だっていうんだ
何だっていうんだ

世界は繋がったふりして
ちっとも繋がっていなくて
その中で繋がっちまった俺達は
生活に
夢に
愛情以外のすべてにやられて

そんなことも見えなくて
そんなこともただ悲しくって
だったら本当に本当のことが
ほかにあるんじゃないかって
あるわけないのに

手をとって
雨を払って
くちづけて
見つめて

さよなら さよなら
おまえはここにいて
霧雨を浴びて
季節のように
泣いたり笑ったり
死んだり生まれたりして

さよなら さよなら
俺はもう行くよ
もうどこでもなくて
この海が
この海だけが
俺の故郷だから











自由詩 霧雨 Copyright 水在らあらあ 2007-04-17 06:56:11
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