モンキーハウスの朝の唄
佐々宝砂

わたしたちはいつかきっと死ねるのだから
ジム・モリソンもシド・バレットも
ヴォネガットだって死ねたのだから
今は死ねなくても
こころさわやかに朝の唄をさえずろう
ゆっくりと自分を殺してゆくために
薬を飲んだり煙を吸ったりしなくても
こわれやすいからだは
いまこのときわたしたちのものであるだけで
イソフラボンをどんなに摂取しようとも
コエンザイムQ10を口からあふれ出すほど食べようとも
一秒ごとに崩壊に向かう
崩壊しなくてはならないし
崩壊できるのだから
わたしはうれしいし安心する
宇宙は今日もきわめて不平等で不均一
かなしいかわいいマックスウェルの悪魔くんが
わたしの指先でちょっとだけ働いているけど
エントロピーは非情にも順調に上昇中
そうわたしたちはいつかきっと死ねるのだから
だから春の朝わたしの庭はぎっちりと生殖の気配
全部服脱いで庭に飛び出そう
わたしは72歳じゃないし処女でもないから
遠慮は要らない
すべて猥雑であれ
すべて嘘であれ
すべて無駄であれ
すべて荒唐無稽の抱腹絶倒のクソったれであれ
すべてスットコドッコイのトンチンカンのボケナスであれ
猥雑と嘘と無駄と
荒唐無稽の抱腹絶倒のクソったれと
スットコドッコイのトンチンカンのボケナスに幸いあれ
限りない愛と限りあるお金と薔薇水が
わたしの庭をかき乱す
あのカオスにわたしもいつか同化するのだから
かなしいかわいいマックスウェルの悪魔くん
そんなにせっせと働かなくてもいいよ
わたしの膝においで
一緒にモンキーハウスの朝の唄をうたおう
心地よいセックスのあとの心地よい眠りのような
だらしなくて幸せな朝の唄をうたおう

(カート・ヴォネガット追悼)


自由詩 モンキーハウスの朝の唄 Copyright 佐々宝砂 2007-04-15 02:40:04
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