マグダレナ 〜渇いた女〜
服部 剛
十字架のネックレスをした女は
今日も「通りゃんせ」の鳴る交差点を
紅いハイヒールで夜へと歩く
人知れぬ部屋で
男に接吻られる
濡れた首すじに
垂らした十字架
( そこには
( 独りの痩せた男の姿が彫られ
( 両腕を広げうなだれたまま
( 力無くはりつけられていた
翌朝
男の姿が消えた部屋で
目を覚ました女
服を着て
ハンドバッグを手に
烏達の舞い降りる
路上へ出る
空腹をみたすパンを探して
ファーストフードの朝食
何ごともなかった顔で
紅茶を啜る
渇いた唇
( 昨夜
( 眠りの内に見た夢に
( まなざしの深く澄んだ独りの男が現れ
( 平伏した女は
( 旅に汚れたその足を
( 絞り落ちる涙で濡らし
( 自らの黒髪で拭った
紅茶の入った紙コップを
白い両手で包み
冷えたこころを暖める
( 首にかかる
( 十字架のネックレス
( 昨夜より少し、重い。
紙コップの上に昇る湯気
筆記体の LOVE という型になって
宙に消えた