錆びた風を紡ぐときの浜辺で
たりぽん(大理 奔)

写真では思い出せる
ものがたりは忘れてしまった
楽しかったことの記憶だけ
振り返ることもなく

通過電車のあとを追う
錆びた風であれば
印画紙を風の色に染めて
完成する思い出

岩の中に埋もれた
純粋な水晶を掘り出そうと
指先で原石を砕くとき
血とともに剥がれて

  透明でないものが懐かしい
  いとおしくとらわれた胸
  正体を確かめたくて
  切れた弦のようにふるえ

完成された不完全な
非結晶アモルファスの壊れやすいひび割れ
錆びた風の剥離面を
拾い集める

異国の言葉のうち寄せる浜辺の
砂で歌う、数え歌
あしあと、流れて消える
完全で不鮮明な、砂の上

懐かしくとらわれて
ぬくもりを取りかえそうと
利き手を握りしめて
波寄せるきわで

時間でも、空でもない方角に
歩く、歩き出す
ものがたりは忘れても
紡いでいく切れた弦、だから




自由詩 錆びた風を紡ぐときの浜辺で Copyright たりぽん(大理 奔) 2007-04-13 01:32:32
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