金属は湿っている
たもつ

お父さんの背骨の近くを押していく
淋しい箇所がいくつかある
大きくなったら学者かバスの運転手になりたかった
と、よく言っていた
結局学者にもバスの運転手にもなれず
十年前に地方の小さな薬局を退職し
多分これからもなれないのだろう
すべての世話が終わると
お父さんはいつものように簡素な礼を言って
使い慣れた金属製のさじを
口に含む



自由詩 金属は湿っている Copyright たもつ 2007-04-06 12:34:15
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