彼の乗った船が エーゲ海で消えた
もも うさぎ
彼の乗った船が エーゲ海で消えた
滅多にあることでも ない
彼の乗った船が エーゲ海で消えた
遠州浜の海岸線は 遠い砂浜
波に運ばれる 白い砂と 生き物の欠片
空はいつも砂浜のように白く
ただ強い風が 鳥を 上空へ上空へと 運んでいる
彼の乗った船が エーゲ海で消えた
砂浜にはひとつの扉
ここをあければ あたしはひとりではない
あけなければ あたしは ずっと ひとりだ
扉の向こうを 覗き見たら
目の前の夜に
何百万光年も向こうの銀河を発見した
それはあたしたちの銀河系と同じ 渦巻銀河で
回転するその独楽のような小宇宙は
中央から外に向かって おびただしい数の
ダイヤモンドの光を 放っていた
その情景は
深海のようにも見え
海に浮かぶ銀河に
あたしは そっと 手を伸ばしてみる
ここに入れば あたしはひとりではない
扉を閉める音は 思ったより響かなかった
砂浜には ひとの気配はなく
ただ 騙しているような 白い空が広がるばかり
いつのまにか ひざまで水につかっていて
寒くはなかった
あたしはここで
砂の欠片が 薄白い光を浴びて
浚われていくのを ずっと見ている
きっと ずっと 見ていることになる
彼の乗った船が エーゲ海で 消えた
とき
あたしは そばに いられた
彼が
あの深海銀河を 待ち合わせ場所に選んだのだ
〜彼の乗った船が エーゲ海で消えた〜
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■ 現代詩フォーラム詩集 2007 ■