回遊、わたしのなかの、
望月 ゆき

水を、欲している
のどの ずっと奥のほうで
さかなが泳いでいる



季節が融けはじめていることに
気づいたときには もう
わたしのなかの海は 浄化され
沈殿していた過去があふれ出ては
渇ききった部屋を
濃に染めていく
とおい、陽炎、



わたしの皮膚のそこここに 
残された痕と 逆光のかお、それと
いつかの不確かな約束が 
消えてしまわないよう
目を閉じないで、眠る
煮沸消毒されていく 四肢から
ともすれば流れ出ようとする さかなを、
抱きしめる



目がさめると
空気が、ぬれている
換気扇をまわすのを 忘れてしまった
まだすこしだけ、眠い
白熱灯の下はいつもあたたかく、 
季節はしばしば 
順序をわすれて 潮溜まりを漂う
さかなが、跳ねて、
やがて、沈む



湿り気をおびた、のどの奥に
からだをくゆらせて泳ぐ あの
あどけない さかなの感覚は 
もう、ない
回遊する、季節、
そうして



わたしのなかに今も、混沌と
海は横たわっている







自由詩 回遊、わたしのなかの、 Copyright 望月 ゆき 2007-04-04 00:31:16縦
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