青空で出張
水町綜助

楽しいのか

いま

楽しい

いま

楽しいとき

うん

楽しい

楽しいよ!

と言って楽しがる
ような楽しさがふと晩ご飯の後なんかにあって
またはそれは昼ご飯の後であってもよくて
つまるところどうでも良くて
とにかくコレはなんてうまいカツ丼セットなのかなんて新宿の食堂で歓喜しながら啜り込んだ蕎麦といっしょに走り出した中央自動車道出張みちゆきは

暗灰色に若めの歯ぎしりにも似た青を流し流し流しつづけてとにかく流して
走り出した山梨までその都留市までいそがなければいかんのだ
と、言ったのは俺ではなく
ホームラン禿がダブルのスーツをほころばせながら
汗を拭き拭き
デスクに沈んでかっとばすので
ぼくはホームランボールとしてスタンドの中で
その坩堝るつぼの中で
ちいさなガキにでも奪い去られてしまうのである

球体力学かネットオークションかで悩まれ
しかし二軍のデイゲームなので値も付かず

ぼくは山梨を一路めざします


そらがあおいですかはるですからね
そりゃあ青いし
桃色でしょう
桜だって
花びらだって
新宿の
上にはしってる
人が歩けない道にだって
舞い上がって
そして
踏まれますよ
どんどんと町が
遠ざかってゆくでしょう
あなたの
あなたに
くっついていた
何本もの線も
命のしっぽも
思惑のいとも
だんだんぷつぷつときれている
「かもしれない」
ほら
青いそら
しろい雲
あたたかい気候に
芽吹いて
もう夏を
待ち伏せしてる
生命ばかり
たまには
スピードを落として
ほらちょっと側道に止めて見てみなさいよ
このわき道のない
あまりにもはやく通り過ぎる道路のそとを
のぞき込んで

なんて声が聞こえようともしかし僕は打球で
ぐいぐいとはしりつづけていくのだが
そのつもりなのだが
どうにも道ががたついていかんよ
どうにも足下がおぼつかんよ
なにこれひだりにそれる

ながれてる
なんだ
これ
おか
おかし
おかしい


ぼくはブレーキペダルをふんだ
車は徐々に減速し
同時に僕は車を側道に寄せて
ハザードランプを点滅させ
そしてついに停まった

車から降りて調べてみるとパンクだった
左前輪のパンクだ
スペアを探したがトランク内の納めてあるべき窪みには小さな工具箱と
なぜかかなぶんが一匹乾いていただけだった
僕は赤まるぼろを一本取りだし火を点けて
深く吸い込みゆるゆると吐き出した
断続的に打ちつけるような風にはためいて
しろい煙は
ぼぼぼぼぼ
と燃えるような音をたてて高速道路の下のぽっかりとした空間にとけて消えていった
ガードレールの向こうはジオラマみたいに鮮やかな山並みで
その下にはソーダ水みたいなサイダーみたいな色をした川がどうどうと
いや
音もなく流れていた

僕は時計を見て

煙草を吸って

じゃふに電話だけして

やってみたくなったので

白いライトバンの屋根に滑りそうになりながらよじ登り

あぐらをかいて

虚空と大自然を眺めながら

ソーダ水とサイダーの違いについて考え

考え

春の太陽はまぶしく

考え

もういいか

そんで

僕は

いま

楽しい

たのしいよ

めちゃくちゃ楽しい

確かめなくても

楽しい

かった

です














自由詩 青空で出張 Copyright 水町綜助 2007-04-02 21:19:53
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