真夏のアブソリュート・ゼロ
はじめ

 午後十時を過ぎると外は絶対零度に陥る
 誰も外に出る者はいない
 一年中 この調子だ
 どうしても出掛けなければならない用事があって 外に出る時には 宇宙服のような最高の防寒具を着て出る
 今は夏だが 外に出てみると 地球上のありとあらゆるものが凍り付いている そして死んでいる 昼間とは全く別の世界だ
 オーロラまで遠くの夜空に見えている こんな世界は生物が住む場所じゃない
 しかし太陽が出て朝になると不思議と世界中の氷結物は一瞬にして溶けてしまうのだ
生物達は待ってましたと言わんばかりに外に出て 地球は日の出のリレーによって徐々に活気づく
太陽には神秘的な力があるらしい 皆は太陽を神と見立てている またいつものように一日が始まる
 そしてまたいつものように午後十時がやって来る
 世界中の人々は何重にも壁を重ねた家に逃げ込み 決して外に出てはならないと毎回のように子供に言い聞かせる
 人間以外の生き物達も巣の奥深くへと潜って 家族と身を寄せ合って午後十時という時間に震えている
 その場を動くことができない植物達は しかたなく 死を選ぶしかできない 数時間の間 極寒の中で死に苦しみながら今か今かと神が降臨する瞬間を待ち望んでいる
 月も星も黙ってその様子を見ているしかできない 毎晩のように嘆き悲しみ 死の数時間を同じ思いで過ごすしかできないのだ
 死の数時間は地球上に完璧な静寂をもたらす 月や星は鮮明に見えて美しい 人間だけが 死の時間の間 自由に動き回ることができる 防寒具を持って仕事に行く人も多いのだ
 やがて太陽が東の空から昇ってくる 地球は一瞬にして色を変えるが いくら神と言えども 大自然の絶対零度の法則には逆らえないのだ


自由詩 真夏のアブソリュート・ゼロ Copyright はじめ 2007-03-30 05:53:51
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