創書日和「歌」 お憂偽うた
大村 浩一
−1−
徒らに笑おう
僕らが苦心して果たそうとした事は
どうやら徒労に終るようだから
中味の無い箱が産業道路を溢れ
空疎な前向きの歌がチューブを溢れ
考える事をしなくなったひとたちが
チョイト手を伸ばせば何でも手に入ると思い込み
そのくせ その手を硝子棚へ伸ばそうとはしない
実際に手を伸ばしたひとは
お笑いの片割れみたいに
手早く奈落へ叩き落とされて姿を消す
「望みを抱いた」という理由で
これで鳥瞰−俯瞰の構図は
ますます完璧になる
それを隠し御魔化すだけの
改竄されたMy-Revolution
誰か言わないのか こんな歌は
もうたくさんだって
僕が聞きたいのはいつだって
ここにはないうた
−2−
君の知らないところで
ひとりで君を護っていたひとが
またひとり消えた
彼が残そうとした記憶は
無価値のレッテルを貼られたので
誰にも引き継がれず
君はありふれたひとの愚かさで
誰かをひしぐ立法さえも世の流れと諦める
そのひしがれるひとに自分が含まれていることを
銃を手にしてもまだ気付かない
溜息の方角から目をそむけ
日々のちいさな慰めを追いかけるうち
島は海へ沈む
誰も妨げないように
ひっそり生きてきたひとたちを呑み込んで
−3−
腕を食われたひとと
妻を食われたひとと
光を食われたひとと
命を食われたひとと
川のほとりに
たたずむ
(俯いて見せたってダメさ
僕の浅はかさはとうに見抜かれている)
(サッカーボールみたく
気楽に蹴られた頭)
黒い墓碑
の向こう岸へ続く
名前の行列
(いっそこのなかに
こっそり紛れ込んでみようか?)
僕は自分の軽薄さに耐えて
せめて諸国を漫遊しよう ※
地獄巡りのトンネルを抜ければ
弔いの灯明が夜空を覆う
あの夏
※岡野嘉樹「育てるちから」から部分引用
〜2007/3/29
この文書は以下の文書グループに登録されています。
創書日和、過去。