山の子供達 〜高尾山にて〜
服部 剛
雨上がりの高尾山
散策の一行は
山を愛するおばちゃんのガイドに
耳を傾けながら
濡れた山道を往く
ある者は
ひとすじの細い茎の上に
寄り添い
束ねられた家族のよう咲く
小さいヤマネコノメを
しゃがんでみつめ
ある者は
岩を濡らす水を吸おうと
立ち上がる無数の苔に
目を見張り
ある者は
川中の大きい石に腰掛け
只 せせらぎに耳を澄まし
「 川の魚は
大雨の前に石を飲みます。
重い体で川底に潜り、
激しい流れから身を守ります。」
一行の先頭を歩き
にっこりとガイドを続ける
おばちゃんの
勇ましい背中の後ろを
ついてゆく
( わたしも石を、飲もう・・・
( 日々の川底に、口を噤んで潜り込み
( 流されぬ者で、あるように。
振り返ると
眼下に流れる
川中の踏み石を跳ねる人々
ひとりずつ
手を取り合いながら
対岸へと渡っていた
( 誰もが山の裡にはしゃいで踊る、
( 自然の子供だった。
開いた雲間から
降りそそぐ日射しに
濡れた木々の葉は煌き
見渡す四方は
立ち昇る靄に覆われ
山は、呼吸をしていた。