果物の匂い
水町綜助
鈍色の鉄を見ている
あくまで照り返しでしかない光が
滑って離されて放たれる
今目の前にぎっしりと詰まった木々を越えた
越えてうんざりする
体温よりはつめたい朝の
紙をめくり続ける音の
棚に連なって実る赤い果物の
踏みつけられた飛沫の染みの
広がる池の波紋は
横道にそれて坂道を上って
右に曲がってなだらかに上り続けて
左に曲がって墓地が続いて
はしって丘を越えたら平野に吐かれたベッドタウンが見えた
無数のベッドが晴れやかな空の下で眠って
月と星の子供をキャンディの中に固める夢ばかり見ている
弾けて濡れた果肉には砂利が付いていて
ベッドの脚はきしむ事のない鉄で
千回眠っても
飽きないのだと
丘の頂で手を伸ばし
朝日に透き通った赤い果実をもぎ取って
町の上にぽっかり開いた空間に
ひとつずつ何個も投げていく
青い壁はまだ朽ちることのないものだから硬く
つぶれて果汁がとびちり垂れ
町に川などをつくり
十も数えるころには
人が住むようになった
今も果物のにおいがつよい