テクノロジーが詩人を欲情させる。
ななひと

「現代詩フォーラム」の出現はある意味相当な事件であった、と思う。それは単に新しい詩の場を提供したのではない。新しい「質」の詩の場を提供したのだ。既に言及されているのかどうか私は寡聞にして知らないが、「現代詩フォーラム」の「新しさ」を支えているのは「新しいテクノロジー」だ。具体的に言えば、それはSQLサーバーとPHP言語によって支えられている。非常に単純に言えば、それまではCGIによって支えられてきた投稿詩サイトを、SQLサーバーをPHP言語によって管理するという、新たなレベルに置き換えたのである。
現在大流行しているブログも、SQLサーバーの存在によって支えられている。SQLサーバーのことをよく知らない方のために説明すると、それは本来はデータベースとして開発されたものである。MovableTypeなどは、現在のブログのような、日記を簡単に発表できるような目的で開発されたのではなく、データをぼんぼん入れていくと、いつの間にか巨大データーベースが構築される、という意図を持って開発された(のだと私は勝手に思っている)。しかし、技術はその意図通りに使われるとは限らない。ブログが「これは便利だ!」と思った人々によって、様々に使われることによって、インターネットの発表形態ががらりと変わってしまった。タグを手打ちする面倒、HTMLを勉強する必要がなくなった。
SQLを利用したデーターベースの最大の利点は、入れたデータを様々なものから接続できる、あるいは勝手に様々な並べ替えが簡単にできてしまうところにある。CGIによる掲示板では、一方面の並び方しか、基本的にはできなかった。ところがSQLを使うと、投稿順、人気順、名前順、さまざまな角度から、データを並べ替えることが簡単にできてしまう。「現代詩フォーラム」を見てみよう。ログインすると、まず、ポイント順の投稿作品が掲示される。それをクリックして、投稿者の名前をクリックする。するとその投稿者の作品がずらっと表示される。さらにその投稿者の作品の評価の欄をクリックすると、その作品を表示した人がずらっと表示される。さらにそこに表示される人をクリックすると、今度はその人の作品が表示される。。。と無限に並べ替えが可能である。これはCGIによっては非常に難しいことだが、SQLでは簡単にできてしまう。
「現代詩フォーラム」の新しさは、その「テクノロジー」の新しさに多くを依っているのである。mixiなどのSNSサイトも基本的にこのSQLなしでは成立しない。
ここまで長々と書いてきたが、そんな技術的な問題と、詩の内容とは関係ないのではないか、と思われる方もおられるかもしれない。しかしこのことは非常に重要である。ここで、詩を投稿している方達は、私を含めて、このテクノロジーに操られて、詩、その他を創作しているからだ。
ポイント制度について前回「「詩人」の「資格」」で書いたが、このシステムもSQLサーバによって可能になったものである。技術的なことをまた少し書くと、おそらくこのシステムは、詩、あるいは詩人をある一つのラインでつなぎ、詩の項目に、評価を書き込む欄を空けている。評価が投じられれば、その欄に一つ数字が付け加えられ、それは誰が投じたのかと一緒にそのデータと連結される。
CGIでは難しかったポイントシステム、これを簡単に実現させたのがSQLであり、そうしてできたポイントは、繰り返しになるが、投稿者に、詩を投稿させる原動力として働くようになる。単純に言えば、ポイントが欲しくて投稿する人がでてくるというわけだ。別にこれはポイント欲しさに投稿するのが悪いと言っているのではない。システムが、そういう欲望を、投稿者に、「自然」に抱かせるようになっているのである。そしてそのシステムは、新しいテクノロジーがなければ成立していなかったはずのものなのだ。
これはいつの時代でも同じ事である。話は明治時代にさかのぼるが郵便制度が確立しなければ、現代文学史に残っている作家、詩人のある層は存在し得ない。郵便制度によって、雑誌に「読者投稿」欄ができ、それまでは単なる読み手でしかありえなかった「地方」の読者が、「郵便」を利用して雑誌に自分の作品を投稿できるようになった。すると雑誌の方も、それを利用して、読者の投稿熱を煽ろうとする。そうすると地方読者が雑誌を買ってくれるからである。地方の熱心な投稿者は、そうした投稿を通じて、いつしか複数の読者から認知され、その中の飛び抜けたものが、「作家」として影響力を持つようになる。
そういうわけで、投稿者を「欲情」させ、投稿意欲をかき立てる根底にあるのは、実はテクノロジーなのである。
今後どのようなテクノロジーが現れるかは全くわからない。しかし必ず現れる。今の我々にそれがどのようなものであるのかわからないのは、それが我々の想像力を超えているからである。しかしひとたび現れると、それはまた新しい欲望の喚起装置として読者を創作に駆り立てることになるだろう。そのことを少し自覚しているのとしていないのでは大きな違いがある、ような気がする。


散文(批評随筆小説等) テクノロジーが詩人を欲情させる。 Copyright ななひと 2007-03-21 23:55:24
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