揚子江のほとりで
たもつ

揚子江のほとりで
あなたは生きてください
わたしは揚子江の様子は知らないけれど
多分あなたも同じくらいに知らないでしょうけれど
揚子江のほとりにも花は咲くでしょう
この年になっても花の名前はわからないので
うまく教えてあげられません
揚子江のほとりから離れたところで
この花はなんとかであっちの花はなんとか
とか言うことのできるあなたが羨ましくて
いつも眠くなると
揚子江のほとりで
あなたは生きてください
うまく水面に浮くこともできるでしょう
わたしもそれくらいならできるかもしれませんが
それが終わったらラジオ体操もできるでしょう
音楽は聴こえなくても
あなたの心の中にはいつもラジオ体操があって
それは第一と第二でしょう
うろ覚えのところは上手に腕と肩と腰を動かしてください
そのことで誰も息を止めたりはしないでしょう
揚子江は地元では聖なる河とされていて
そこで身体を清めたり死体を流したりするそうですけれど
あなたの頭を洗ってあげたとき
ふけが涙みたいにポロポロ落ちて
痒いところはありませんかと美容師みたいに許しも乞うたのも
あなたは生きてください
揚子江のほとりでと、それから少し手が冷たい
もちろんわたしはそんな揚子江の様子も知りませんけれど
犬の死体が流れてきても泣かないでください
それはきっとあなたの大切な犬の名前とは違う
と思って差し付けないでしょうから
揚子江のほとりであなたは生きてください
あなたの好きなお魚もたくさん食べてください
むかし近所の池で見たような魚も
同じような背格好で泳いでもいるでしょう
聖なる水も飲んで構わない、と
揚子江の様子はわたしはよく知らないけれど
それからまた浮いて
戻ってきて
ゴミは指定された日にゴミステーションに忘れないで
きちんと分別もして環境に優しくされるあなたのままでいて
そしてもしわたしともう一度あったら抱きしめて
愛していると言ってください
揚子江のほとりで
砂を踏んで



自由詩 揚子江のほとりで Copyright たもつ 2007-03-20 09:03:28
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