ふたり、夢を見る
soft_machine

 エスカレータで夢を見る

ふわふわの風船、逃げられて
いまにも泣きだしそうなおんなの子
ジャンプして捕まえた糸に端の輪をつくり
ひとさし指を通してごらん
これで赤色どこへも行かなくて
ずっときみと一緒だね

泣きだしそうだったおんなの子は安心したのか/それともお前の顔に怯えたか/わっと泣いたお母さんが駆け寄って/不審な目でにらむお前は言って哀しいけれどお嬢さんの風船です/踵をかえすお母さんすこしぼっとして/通り過ぎる通行人は山ほどいたが/バスを待つ人もすこしはいたが/みんな夕暮れに触れてしまいそうだった

博多高速バスセンターが
ライトアップされたドナルドで出迎える
指に風船が赤い
ゆれていたのを喜んで
ポケットに湿気モク見つけた
誰か男に火をもらう硝子に映して
膨縮する街の息遣いにたばこあかりを
ちょっとの間重ねていられた明滅する蛍光灯と
誘導灯のこまかい囁きと
夕映えに浮かぶネオン
頷いて雲を割って進むジェット
ひとつひとつ空腹に凍えながら
おんなの子はもう家に着いたろうか
君の暖かさで風船が割れなかったら
いいなお母さん勉強ばかりさせないでねと

だれかといてもひとりは辛いけど/ほんとうのひとりはずっと辛いので/猫でも鼠でもいいからすこしの間耳を貸してほしいいてほしいのだ/いてくれさえするならばイヌサルフナトラかまわない/真夜中、未明、明け方と。微笑みだけあればいいのではないだろうか、いっそ/あぁ海、あぁ月、あぁ雨あぁ砂浜と/繰り呉ちるだけ私はもはや幸せでなかろうか/つまり君は山かもしれず渓かもしれずもしやこれは旋毛か花片かいっそそれとも?
もはや蜂か鷺かのやうに狐か狸の技にて私の裡に今もあって生きる。

こんなすき間にお前のあしたは見えない
柔らかい汗がむっとした鎖につながって
すべての童は静かに泣いた
ビルの電気響と靴音だけが
夜の底に落ちた影を過ぎてゆく
どんなにちいさいあしたも見えない
お前は自分の影を踏み占めて
もっとひとり語りかけるから
どうしてもお前はひとりのままなのだろう
オリーブの枝をくわえた鳩が
ポケットから翼を覗かせている
通行人に染みついて
お前は擦り切れへこんだ
膝を抱いて眠るワンカップが
かかえこむものなどないはずなのに
空になってつま先から転がってくるが
お前の冷たい夜の
誰もいない冷たい夜の
壁に届くまでの夢も見えない

そしてやっと冷たい外が
やってきて眠るお前を包んだ
到着したバス
開く待合室のドア
ビニールの中でたまごが割れてネクタイを緩めた





自由詩 ふたり、夢を見る Copyright soft_machine 2007-03-13 20:56:10
notebook Home 戻る