不在
tonpekep

営業はしているけれど
従業員のいない旅館の大広間で
卵かけご飯を食べていた
お箸と茶わんがかちゃかちゃ鳴っていた

とおい処にちかみちがあって
ちかみちはみちなりを少し折り曲げている
みちのさきっぽでは
無風の中で
凧がわたしを上手に空高く上げている
たくさんの噂がそこにはあったから
嚔が途絶えることはなかった
浮力が尽きることはなかった

いつの春かは知らないけれど
たくさんの戸が美知辺に開いていて
たくさんの名前が落ちていた
たくさんの卒業がそこを透り抜けていった

郵便バイクの影だけが
みんなのうたの中を急いでいる
宛先のない手紙を
渡す手だてはなく
また渡されるその手も見当たらない

影はくるくると
うたの中を巡りつづけている

わたしは在宅かもしれないし
不在かもしれない
わたしはそれが不安で
ときどきピンポンを押したりする


自由詩 不在 Copyright tonpekep 2007-03-13 19:50:40
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