ヴォミット01
虹村 凌

みんなが笑っているので鏡を覗いた
口の周りが乾いたヴォミットでカサカサになってた
おい 何でお前はそんなツラしてんだ?
鏡を叩き割って走って逃げた
追いかけてきた駅員の足は遅くて
俺は走りながらまたヴォミット
道しるべ

いつからかヴォミットが止まらない
ずっと昔は反芻してた気がするけど
もうヴォミットするのに慣れちまった
回遊魚みたいに
ヴォミット止めたら死んでしまう
そう言ってる間にもヴォミット
また誰かが笑う黄色く短い指を向けて

気付けば後ろ指しか指された事が無いかもしれない
込み上げるヴォミット噴出すヴォミット
両手から溢れ出るヴォミット
みんな遠巻きに見てはクスクス笑う
笑うな笑うなよ
お前らだって影でヴォミットするくせに

全身ヴォミット塗れで走って逃げた
転んで泣いた
知り合いに声をかけたら
「なに」
って言われてまたヴォミット
もう涙か鼻水かわからない上にヴォミット

あの頃みたいにお前の胸で一度だけ眠らせてくれ
その瞬間だけはヴォミットせずに済みそうだ
そう呟いてヴォミット
みんな遠くへ行ってしまったよ

人知れずヴォミットし続けた彼はとうとう喉に詰まらせて逝ってしまった
彼の周囲には二山のヴォミット
彼の死に顔は安らかな笑顔
世界せ一番綺麗なヴォミット


自由詩 ヴォミット01 Copyright 虹村 凌 2007-03-12 00:05:04
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