れいれい
Six

 BarRayRayは、
 レイ・ビルディングの最上階にカウンターだけの小さな店を構え、
 れいれいが店を仕切っている
 れいれいはオカマだから
 ママなのかマスターなのかよく分からぬが
 客はれいれいのことを「れいれい」と呼び
 誰もママとかマスターなどとは呼ばない

 レイ・ビルディングは戦前の建物で
 こんな街の真ん中に、空襲も震災も乗り越えて、
 こんなオンボロのビルがよくも生き残った!ほめてやる
 ほめてやりたいが、たたずまいがもうすごくいかがわしいせいか
 街のガイド本や歴史建造物の本などにはあまり紹介されていない
 やたらと堅牢な石造りの、一体何階建てなのか不明の
 一見したところは3階建てなのだが
 てっぺんにあるBarRayRayに行き着くまでに
 息を切らしながら階段を上って行くが
 確実に3階分以上は歩いているぞ
 まったくほめるんだったらこちらの健脚の方をほめてくれ
 勿論エレベーターなんぞはついているはずもなく
 階段・踊り場・階段をくるくると経て
 どこぞの階にたどり着くと
 共同トイレの樟脳くさい匂いがしてきて
 あ、もうすぐれいれいの店だ
 と分かる仕組みで、その頃にはここが何階なんだか
 すでに酔っているせいもあって
 どうでもいいことになっている

 どうでもいいことといえば
 れいれいはオカマだけど
 日本人であるかどうかも不明なのらしく
 そういえば、レイ・ビルディングも古い上海の写真にあるような建物だし
 れいれいは中国人なのかな台湾人なのかなと
 一瞬思ったりもするけど
 レイ・ビルディングが何階建てのビルなのか結局どうでもいいのと同じくらい
 れいれいに関することもどうでもよく
 あれそういえばれいれい年幾つよ?
 まあどうでもいいか

 BarRayRayには最初、会社の人に連れて来てもらった
 忘年会か何かの帰りしな「もう一杯行こうよ」ということになって
 「じゃあ面白い店連れて行ってあげる」ということになって
 わたしたち女子社員2人はその先輩にくっついて
 レイ・ビルディングの階段を息を切らしながら上った
 階段を上りきった屋根裏みたいな所に
 RayRayと小さな札のかかった赤いドアーがあって
 わたしたちは女子社員らしく「キャッあやしい!」とはしゃぎ
 先輩は「こんばんはー」とそのドアーを開けた
 ドアーの横でクリスマスツリーにつかう小さい電球がたくさん明滅し
 店の中もドアーと同じ赤い色をしている
 常連らしい客が数人、
 わたしたち3人が入るとカウンターは満席、
 カウンターの中には化粧をしたれいれいがいた
 わあ、女装の人だ
 と見た瞬間分かるあからさまな化粧で
 でも先輩はそのことについては何も言わずに
 わたしたちの反応をれいれいと二人で楽しんでいるかのように
 ウイスキーのハイボールを注文した
 「そちらは?」
 とれいれいに訊かれ
 「あっえーと藤原さんと同じ会社の者です」
 と答えたら
 「ちがうわよ注文よ。何飲むの?」
 と呆れた口調でれいれいは言った

 結局わたしたちはウイスキーを何杯か飲んで
 たくさん話をしてから帰ったのだけど
 そんなにたくさん酒の種類があるとも思えないBarRayRayに
 その後一人ででも足繁く通うようになった
 女子であるわたしは
 オカマのれいれいから冷たくされるのかしらと
 最初は心配したりもしたけれど
 そういうのは無かった
 なんかそういうのは自分の偏見だったのかしら
 とにかくれいれいは、客の誰に対しても公平で
 そして絶対にツケはきかない
 どんなに客が酔っていても厳正なる支払いを求めた

 てゆかれいれいは何故オカマなの?
 という質問はまだしたことがなく
 気にはなるけどどうでもいいような
 一度店の外で、階段を下りてくるれいれいと鉢合わせしたことがあって
 「あれどこいくの?」
 と訊くと
 「ちょっとあんたやっぱり女の子ねきれいな脚よね」
 とれいれいは羨ましがった
 わたしはミニスカートから脚をにゅっと出して見せ付けると
 れいれいも自分のミニのドレスから脚をにゅっと出した
 男の生脚
 「れいれいストッキングはかないと冷えちゃうよ」
 と言ったら
 「バカねこんな脚にストッキング被せたらキモイじゃない」
 とすごくバカにしたように言って、階段を下りて行ってしまった


未詩・独白 れいれい Copyright Six 2007-03-10 12:36:48
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