モバイル100
nm6

ぼくらは電波に乗って。


つい揺れて悔いて後退るぼくの間違いも、変化する内側を訴えるきみの気まぐれも、あけすけで譲らない誰かの嘘も。電波に乗って、浮かんでは飛び交うそれらがもし、全て空気中にうっすらと見えたかと思うと、やがてくっきりと現れてしまったとしたら。それは、そう。それは絶望的にやさしい何らかのパワーで、決して眩暈でも幻覚でも耳鳴りでもない。だから、吐いてしまおう。ぼくならばきっと、そうしよう。まず、窓から飛び入る完璧な虫の、そんな進化論的なカーブを黙って見る。しばらく見惚れてから、その隅々を小さな声で繰り返し読みあげる。そうして知るのは、世界の数だ。それはあくまで量でしかない。分かろうとしては、決していけない。ただその数だけ把握して、そして高らかに吐いてしまう。ふだん吐きづらい、大きすぎることばだけ。その包み込むことばを、狂ってしまったフリをして。


ぼくらは電波に乗って、吐いてしまおう。
笑い飛ばせば霧にまみれて、二度とするりとは分け入れない。


ぼくらが過ぎる、いつもの渋谷駅だ。エスカレーターが警告する平和。集まっては去っていき、繰り返し分け与える。何度も、何度も。なくしたものも、吊り下がる小手先の意図に呆けて、気づかないまま通過していけるように包囲している。それも、そうだ。それも絶望的にやさしい何らかのパワーで、決して甘えでも不注意でも痴呆でもない。気づいたらきっと、無駄なことをしてしまう。しなくてもいいのにしてしまうことを、してしまう。だから、いいだろう。ただ、きっとぼくらは、ちょっともう遅いんだ。そうして知った世界の数。それはあくまで量でしかない。分かろうとしては、決していけない。ただその数だけ把握して、あとは、引きつける何かがあれば。押し付けがましいものは欲しくないけれど、わがままに響くことは、構わない。なんとかして、欲しいんだ。ぼくらは、聞こえないフリはしない。




何だろう。これは。
見たことあるような、途方もないような。
モバイル。うん、モバイル。晴れている空も、ときには曇っている。
100のモバイルから、愛とかなんとか。そう、それが飛び交う常日頃だ。


ぼくらは電波に乗って、吐いてしまおう。
笑い飛ばせば霧にまみれて、二度とするりとは分け入れないんだ。


自由詩 モバイル100 Copyright nm6 2004-04-20 14:31:35
notebook Home 戻る