降り来る言葉 XXVIII
木立 悟




左目の蜂
音を運び
ひとつふたつ
鎖骨に沈み
水音になる
心音になる


傷は多く
果実の匂い
口でふさぐ
はばたきの色
外へ 外へ
去ろうとする色


水辺をゆく銀
とめどない白
みどり 浮島
どこまでも不確かに
ゆるぎないもの


指と指
言葉と言葉のはざまの舞台
からみあうものたちに突きつけられる
高く熱い布の壁


無機の羽
雨の浅さを補う結露
銀は小指からのみ血を流し
微笑むまなこのかたちの下の
肉の謂われを掘りつづけている


いつまでも光は音に追いつけない
暗がりを駆ける子の声に
触れることさえできずにいる
けだものの牙が けだものの尾が
黄金こがねに至らぬ毒と鉛を
毒と鉛を解さぬ黄金こがね
絶えることなく打ち砕いている


すぐ近くに見える雨音が
たどりつかないことをいぶか
時間も場所も
遠く離れているものたちが
あまりに似ていることをいぶか
銀は水辺にひとり暮らした
信じることはわずかだった


未分化の目を見つめている
常に水色に流れ落ちそうな
数とは何かを知らぬ目を
音がそのまま
波紋さえなく
沈みゆく目を見つめている


いくつもの汽笛が
波の下をゆく
飛ぶものは目をふせ
道をあける
砂を歩むもの 消える足跡
銀は水の輪のあつまりとして風に立ち
夜明けはみどり
かかえきれず
左目に手に胸にあふれる














自由詩 降り来る言葉 XXVIII Copyright 木立 悟 2007-03-06 13:12:16
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