(わたしは千の風にならない)
佐々宝砂
ほんのわずか 2キロメートル
そう わずかに三十分も歩けば
この身体はそこにたどりつくのだ
あなたのいる場所に
小綺麗なだけの安っぽいアパートの一室に
まるでラブホテルみたいに
テレビとベッドしかない部屋に
でもわたしはここにいて
歩き出さない
(わたしは千の風にならない)
泣きもしない
笑いもしない
クソ真面目な顔で眉間に皺を寄せて
はるかかなた2キロメートル先にいるあなたに
静かな声でおくる
わたしの声は星間を吹き抜ける太陽風のように
でも
(わたしは千の風にならない)
引き千切れても
変質しても
孤独になっても
たどりたどればただひとつの源を持つものとして
はるかかなた2キロメートル先にいるあなたに
もしかしたらそこにいないかもしれないあなたに
かならず
わたしの声は星間を吹き抜ける太陽風のように
消えてしまいそうになりながら消えない
死んでしまいたくても死なない
悲しいとしても
そう 悲しみのあまり死んでしまったとしても
(わたしは千の風にならない)
ただひとつの源を持つものとして
わたしの声はわたしの声のままで