桜通信
佐野権太
春へと続く回廊は
まだ細くて
差し込む光に
白く歪んでいる
三月は
足裏を流れる砂の速さで
大切なものを攫っては
あやふやなものばかりを
残してゆく
いくつもの過ち
つかみ損ねた指先
の行方
膨らませた折り鶴の
肺のかたちに
泣き崩れる少女は
尖らせた青い嘴が
春を指していることを
知らない
鳥とともに目覚め
黄昏に涙を流し
星空にゆるされて
一日を終える
そんな素朴な循環を
幸せと呼ぶならば
春を抗う理由など、ない
おぼろな風に
髪を梳かれるまま
指先に集まる光を
愛しい
と想うとき
少女は
一本の桜樹になる
もらい泣きする友の
額を支える
静脈の心音
薄紅のいたわりは
肩に、髪に
その
麗しき立ち姿に
何度となく救われる僕らは
桜の咲き綻ぶ
この国に生まれてきたことに
ありがとう
と言いたくなる