ある日のこと
RIKU
リスさんは、お散歩の途中で、道のはしっこにしゃがみこんだうさぎさんに出会いました。
「うさぎさん、うさぎさん、こんな所で何をしてるの?」
うさぎさんは答えません。
「うさぎさん、うさぎさん、どうして泣いているの?」
うさぎさんの足元に、小さな小さな水溜りができていました。
「あのね…」
ぽつり、と、うさぎさんは話し始めました。
「あのね、心に、穴が空いてるの。みんなといるとき、その穴は何かで塞がっていたんだけど…」
リスさんは黙って聞いています。
「みんないなくなっちゃったの。そうしたらね、心の穴を塞いでいたそれは、かりそめだったの」
うさぎさんは、ゆっくりゆっくり話します。
「ひとりだけいたの。本当に穴を塞いでくれる人。納得するってこと、教えてくれたの」
リスさんは、真剣に話を聞いています。
「この人じゃなきゃだめだ。って思ったの。だけどね、その人、もう前みたいに言ってくれないかもしれないの」
「どうして?」
リスさんは、やっとそれだけ言いました。
「どこかに行っちゃうの。分からないの。あの人がおいていくの。淋しいんだ。悲しいんだ。とてもとても、悲しいんだ―――」
リスさんは、うさぎさんがどれほどつらいのか分かりません。リスさんは、まだ、そんな気持ちになったことがなかったのです。
リスさんには、言うべき言葉を見つけられませんでした。だから、ただ一言、言いました。
「また話したいときは、いつでも聞くよ」
「ありがとう、リスさん」
リスさんは、リスさんがうさぎさんの話を聞いたことで、うさぎさんが果たしてどこまで楽になったのかは分かりませんでした。
リスさんは、うさぎさんはきっと、ぜんぜん楽になってないんだろうな、と思っています。
多分それは間違っていないでしょう。
リスさんは、ただただ、うさぎさんがいつか笑える日が来ることを願うのでした。
おしまい。