新宿はさようならと言った
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東京で暮らすために
新宿に降り立った日のことを思い出す
長旅、といってもたった半日だ
タンクトップをねじるくらいで
音楽をつめこんだ鞄を
肩に食い込ませ
その日を酒を探して歩いた

福岡で暮らし直すために
新宿でバスを待ちながら
あの日一緒だった兄貴はいなくなった
増えた荷物は遅れて届くだろう
父親を探すこともできなかった
この街のどこに
墓場があるのだろう

まばたきはなみだを弾いて
眼鏡に色をつけてゆき
いくつか曇る
感情とは異なったなみだ
なみだは笑いながら
なみだ目はあきれながら
ビルの流れを感じている
さくらのにおいが
すこしだけれど

鳥が飛ぶには
ちいさな空だと思う
それが東京の出迎えと見送り
新宿は誰もいない街だ
おまえはいつも退屈で
時間はゆるやか過ぎる
立ちどまるたび
交差点の奥に
とおいむかしの争いの
ひとがたの影を見る

この街にも北風はあるのか
ネクタイを結んだら
かかとを鳴らした合図を送ろう
おまえがこれからの
ほんとうの行先を知っていたら
答えてほしい
梢をかたむけた
新宿はさようならと言った
地面にそっとてのひらをひらく
あたたかい
そして、静かだ





自由詩 新宿はさようならと言った Copyright soft_machine 2007-03-04 01:37:39
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