alpha107号室〜カレーライス〜
コトリ

東京の道は、入り組んでいて好きじゃない
この街は迷路だ
この町は迷路だ


水分が 
のみこんだ片端から身体をとおりぬけていってしまう
知らない猫
知らない道


鼻のあたまを焦がしながらずんずん歩く
部屋から徒歩5分の(はずの)町を 
もう2時間はさまよっている
町役場の帰り道


ありえない?
ありえるのだ
「慣れた道」が見当たらない
この街は迷路だ
この街は迷路だ
決して方向音痴ではない
決して「地図を読めない女」ならぬ
地図を読めない男ではない




けれど、もうすぐ「あの」時間がやってくる




ああ、いいにおい
今日はカレーライス




殺伐とした学生マンション街で
たったひとつの道しるべ


それは同じマンションの、名も知らぬ少女の作る夕食
毎日決まって午後6時、調理開始
今日はカレーライス
昨日はなにかの魚の煮物
一昨日は…思い出すことができない
うーむ、まずいだろうか
良い女子大生が飲み会にも行かずに
毎日毎日自炊とは、いささか疑問だが



なにはなくとも
そうか、この角
そしてこの一本道


段々とカレーのにおいが強くなる
今日は我が家(とは言えひとり)もカレーだな
……レトルトの



流石にコンビニへの道のりくらいでは迷ったりしない
(・・・・・・回り道すれば、保障はないけれど)
どちらにしろ 強い味方が付いている
カレーライスの君
もしくは
煮魚の君
明日は
何の君だろう


この歳で
ホームシックもないけれど
君の部屋の前を通ると
何故だか涙がこみあげるんだ、毎日


自由詩 alpha107号室〜カレーライス〜 Copyright コトリ 2007-02-22 19:17:45
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