エンバリーさんはその日も青をつくっていて
ウデラコウ
エンバリーさんは その日も青をつくっていて
もう一体 いくつめの青になるか 自分でもわからなかったけど
それでも いつもと同じように青をつくっていて
赤だとか 黄だとか 緑だとかが もてはやされる中
じっとただ 青だけをつくっていた
エンバリーさんの作る青は
空よりも 空の色をしていて 海よりも海の色をしていて
青よりも 青の色をしていた
だから その青を目にする人は 今まで みたこともないその色に
「みずいろ」だとか「ぐんじょう」だとか
どうでもいい呼び名を 沢山つけていった
それでも エンバリーさんは 青だけを ずっと作っていて
たまの たまに その青を 買いに来る人にだけ
まるで 娘を嫁に出すように 大事に 大事に 引き渡した
エンバリーさんの青は それだけじゃなくて
もう1つ 秘密があった
それは その青を 手に入れた人には 幸福が
やってくるということ
でもそれは 本当の本当に 微々たる 幸福で
買った人は 誰も気付かなかった
青の天使が エンバリーさんの青に 恋をして
その中にもぐりこんでしまったから
幸福がやってくるのだけれど
この青の天使は 酷く恥ずかしがりやだから
ほんの少しの幸福しか 渡せないのだ
それでも 青の天使は エンバリーさんの青が大好きだから
ずっと傍にいて 小さな幸福を 渡し続けるのだ
その日もエンバリーさんは 青をつくっていて
もう何年も 何年も 作っているから
もうすっかり年老いて ほとんど何も見えなくなっていたのだけれど
その青の色だけは はっきりと 見えていて
心の中で ずっと 見続けている
永遠の青にたどり着くまで
エンバリーさんは きっと 青を探し続けるのだ
エンバリーさんは その日も 青をつくっていて
青の天使は その日も 彼の青に 恋をしていて