マリリン
ふるる

あれは確かマリリンが三歳の時
近所の大人や親せきたちは言った
「マリリンちゃんはほんとうにかわいいね」
マリリンは単純に嬉しかった
でも大人はみんな小さい子どもにはかわいいと言うのだと思っていた

あれは確かマリリンが八歳の時
友達のリンダが言った
「マリリンてお人形さんみたいにかわいいねー。あたしはブスでやんなっちゃう」
マリリンは驚いた
今だかつて
顔のよさを気にしたことも
お人形みたいだからいいとかブスだから嫌だとか
思ったことも家で言われたこともなかったから

あれは確かマリリンが十歳の時
友達のジェシカが言った
「マリリンて足長いねー。あたしは短くてやんなっちゃう」
マリリンは驚いた
今だかつて
足の長さを気にしたことも
長いからいいとか短いから嫌だとか
思ったことも家で言われたこともなかったから

あれは確かマリリンが十二歳の時
友達のボニータが言った
「マリリンて胸が大きいねー。あたしは小さくてやんなっちゃう」
マリリンは驚いた
今だかつて
胸の大きさを気にしたことも
大きいからいいとか小さいから嫌だとか
思ったことも家で言われたこともなかったから

あれは確かマリリンが十三歳の時
友達のニックが通りすがりに胸にタッチして言った
「マリリンて胸でけえな」
マリリンはショックで口がきけなかった
今だかつて
そんなことをされたことがなかったし
初めて味わったひどく屈辱的な気分に打ちのめされた

あれは確かマリリンが十五歳の時
プールの授業で水着になって
プールサイドに立ったとき
友達がどよめいた
女の子は賞賛の言葉
男の子はじろじろと見たあと何かいやらしい言葉を
口々に言うのだ
マリリンは驚いた
今だかつて
プロポーションのよさを気にしたことも
何がいい体型で何がよくないのか
思ったことも家で言われたこともなかったから

だって家では
マリリンはマリリンであるだけで愛されて
それ以外のことは求められず褒められてもいないんだから
鏡を見たって
見慣れた自分の顔や体がただあると思うだけ
外見を褒められてもべつに嬉しくない
大好きな本の続きが読めるのが一番嬉しい

そしてマリリンは思った
これからは、プールの授業には出ない
服も、だぼっとしたものしか着ない

自分の顔や体を
じろじろ見られたり
色々言われたりするのは
すごく嫌だったし
大人しいマリリンは目立つのが大嫌いだったのだ

しかしどんなに隠しても
透き通る肌、輝く髪、うっとりするほど愛らしい顔をしていて
体育の授業や
夏で薄着になれば
大きな胸や
すらりとした脚は
隠しとおせるものではなかった

あれは確かマリリンが十七歳の時
それまでには
ありとあらゆる種類のセクシャルハラスメント
変な男に追いかけられたり言い寄られたりしてしまったマリリン
沢山食べて太ろうとした時もあったが
胃は悪くするし口内炎やニキビはできるしで
諦めた

一人の男にとってはほんの少しの悪ふざけで
一度だけでもう二度としないと謝られたとしても
それが百人集まればマリリンにとっては脅威だ
男の一番嫌な所ばかり見せられて
すっかり男嫌いになり
告白されても中身か体かどっちが好きなのか疑わしいからOKできない
四十歳の今でも彼氏なし独身だ

顔の悩みも
体型の悩みも
モテない悩みも
パートナーがいない悩みもないマリリンは
幸せと言えば幸せと言える

今日もだぼっとした服を着て
図書館で本を読んでいる








自由詩 マリリン Copyright ふるる 2007-02-16 11:32:24
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□□□抒情詩っぽい□□□