兵隊さん観察日記(即興)
いとう




○月○日
家に帰ると兵隊さんが押入れでもぞもぞしている。目が合うとピシッと敬礼しながら、「人道支援です」と言う。人道支援なら仕方ないのだろう。たぶん。兵隊さんは押入れでずっともぞもぞしていた。

○月○日
「一緒にご飯食べる?」と声をかけると、「ありがとうございます。しかし安全性をはかるため現地の食物は口にしないように命令されておりますので」と丁寧に断られる。少しムカつくが命令なら仕方ないのだろう。たぶん。2人分をもぞもぞ食べる。

○月○日
部屋中が水浸しになっている。兵隊さんがやったらしい。「給水」というそうだ。迷惑な話だ。しかしいったい、誰を人道支援してるんだろう。

○月○日
夜、近所で変な音がする。兵隊さんは押入れに閉じこもっている。

○月○日
兵隊さんは押入れに閉じこもったまま出てこない。昼間にも変な音が聞こえた。

○月○日
兵隊さんは押入れに閉じこもったまま出てこない。「どうしたの?」と聞くと、「命令ですので」と返ってくる。

○月○日
兵隊さんが押入れに閉じこもったまま出てこないのにも慣れた。ニュースでやってた。とうぶん出てこないらしい。

○月○日
押入れをノックすると、ノックが返ってくる。
いてもいなくても同じかもしれないと思う。
あんな狭い場所に閉じこもってたいへんだとも思う。


○月○日
知らない間にいなくなってるかもと思いながら寝る。
そしたら夢を見た。どんな夢かは書かない。




散文(批評随筆小説等) 兵隊さん観察日記(即興) Copyright いとう 2004-04-14 19:10:55
notebook Home 戻る  過去 未来