ごめん なさい
朽木 裕

吐き気がして目が覚める。
目覚めは無論最悪、だ。
身体が熱を持っていて体温計を手探りで探しながら思う。

こんな人間でも生きている。

熱を持っているものなぁ、この肉体が。
体内のなにかとちゃんと戦っている。

私はとうに外の世界に負けたというのに。

胃液の味が口腔内を占めて不愉快で、ならない。
視覚で美味しそうなご飯を捉えていても
それはもうすぐ私の吐瀉物に成り果てるのだ。

酷く、憐れだ。

誰が この食べものが それとも私が。

白くて人間の体温みたいにあたたかな便座を私は憎む。
こんなものに掴まりながら必死に咽喉を上下する。
無様だ。死に値する。
けれども死ぬわけにいかない私は無様でない生き方を探す。

口が切れるくらい冷たい水でそそぐ。

何を くちびるを 存在を。

鏡の中にうつった幽鬼みたいな自分を百億回目くらいに酷く、嫌悪した。
無様でない生き方を私はまだ知らなかった。

「す き」

呟く口は食べものを吐いた ひたすらに。

「い か な い で」

決して置いていかれはしないのに私は脅えた。
信じてないの、と哀しそうな瞳。

違う

信じていないのは自分の存在価値

ごめん

一番嫌がる言葉を私は何度も何度も口にする

ごめん

ごめんなさい

どうして謝るの
謝るの、なし
大丈夫だから
何処にもいかないよ
傍に居るから

信じられない?

首を振る。
咽喉は暴力的にやけるようで目の奥がひりひりと痛い。

ごめん なさい

好きでいてくれるのに嫌いでごめんなさい
認めてくれるのに認めなくてごめんなさい
包んでくれるのに逃げようとしてごめんなさい
生かしてくれるのに死のうとしてごめんなさい
愛してくれるのに愛されなくてごめんなさい

ごめんなさい

ごめんなさい

ごめん

ごめん なさい

貴方が好きでいてくれる私のことを大嫌いでごめんなさい

「綺麗」

貴方が云うたびに私はおかしな気持ちになる。
だって汚い雑巾を綺麗なんていう人いない。

汚いけど好きって云ってくれたなら
余程救われるかしれないのに。

それでもきっと君は云う。

「思ってないことは云わない。本当に綺麗だから」

こんな酷いことがあるなんて。
愛の言葉はただ死刑宣告に聞こえた。

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いつもは書かない追記を書きます。
これをいつか読むだろう、貴方へ。

半分以上本当で少しだけフィクションです。
死刑宣告に聞こえたことは、ないよ。
どうして綺麗なんて云うんだろう、と半泣きで思いを巡らす事はよくある。
君の愛は大きくて大きすぎて私は小さすぎてちっぽけで。
どうしたらいいか分からなくなることは本当。

何年もの間、自分はずっと雑巾とイコールだと思っていた。
それも真っ白なものではなくて余すところなく汚れで埋め尽くされた雑巾。
汚いそれを指の先でつまむイメージ。
それが自分のなかの自分。
でもそんな自分でもだんだん好きになってきた。
雑巾を胸の前でぎゅっと抱き締められるくらいには。
捻くれていて本当に申し訳なく思う。
素直になれるのは貴方に対しての好きな気持ちだけ。
そんなあたたかな気持ちが自分に向くことはない。
どうしてだろうね

自分のなかの自分が雑巾から人間になるまでは
とんでもなく果てしない夢のようだけれど
付き合ってください
迷惑はなるべく少なめに、と努力するから。
素直な自分で貴方に好きと云える日まで
何年かかるか分からないけれど
確かに確かにその日はくるから

待っていてね

それまで残していかないでね


未詩・独白 ごめん なさい Copyright 朽木 裕 2007-02-13 22:11:12
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