あおしんじゅ
もも うさぎ

あおしんじゅの森は
樹海の森だったし

あたしはその結晶を とても美しいと思った
粒の小さい 白い涙のようなそれは
体に悪いと知っても
飲み込み続けるよりなかった


ゆるい雪のように
花はしばらく降り
世界は少しずつ眠る


まぶたのおりたあなたの唇に
そっと指を触れた
あたしは指だけで その味に体中をしずませる 夜

あなたのまわりには
あおしんじゅが降りはじめていた
あなたは気づかないけれど
あたしは見ていた

それはリキュールグラスの中に
カーテンレールのすみに
果物皿の反射する水滴に
その睫毛を凍らせた冬の月に
バックミラーの涙に
揺れる
ろうそくの影に
ひそひそ 降り積もって
あたしは見てたけど


そうね

それだけなら
きっとあたしだって
なにもかも投げ出したりしなかった

綺麗だったから
手が届かぬくらい
憎いほどに
綺麗だったから


雨音に吸い込まれて
濡らした睫毛も汗もかわいて
樹海になんて
誰も行ってないと言って
海にだって
誰も行ってないと言って

なぐさめて
怖いって
こどもみたいになんか
泣きたいわけじゃないんだから
綺麗だって
泣くの




もう少しだけあたたかくなったら
春の雨に打たれながら
この向こう側の空を見よう って

そう まっすぐ 言うのね


あたしはまた
あおしんじゅの冷たさを
体中にまとってしまう




「とてちて」

   「とてちて けんぢゃ」




ねぇ

行かないでね
あたし何もいらないし
もう十分綺麗なものを見て
眩しくてしょうがないの
あたしが目を覆っているのは
そういうわけなの


だからせめても
森へは一緒にいく
手をつないで
髪をなでて揺らしながら


雨の灯かりで
二人でゆく












〜あおしんじゅ〜



自由詩 あおしんじゅ Copyright もも うさぎ 2007-02-13 04:57:48
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