遠吠
水在らあらあ



独裁者についてった時代を
その時代の人々を今振り返ってどうかしてたんじゃないかと思うように
百年二百年たったら
俺たちのことを
俺たちの時代をどうかしてたと思うのか
船はずっと北を目指している
船長 航海士連中は気がふれている
俺はその豪華客船で一匹の犬だった
寒さが募って みんなそれぞれにそれぞれの立場から不満を垂れる
白人の船員は手袋が欲しいと
メキシコ人の船員は白人と同じ給料にしてくれと
女性乗客は男性客と女性客の待遇を同じにしろと
嫌煙者達は喫煙所の設置を
ペット愛好家は俺がインディアンのアル中船員に蹴られてるのを見て
金切り声をあげて俺を引き取らせてくれという よけいなお世話だ
そのアル中インディアンは夜のサイコロ賭博の運営権を訴える
ホモのボーイは男娼行為の自由を
大学教授は皆で団結して抗議しようと提案する 暴力は無しで
他のみんなも 乗客も船員も不満たらたらだが
船内には娯楽施設がたくさんあり まあそれしかなくて
カップルはセックスをし シングルは相手を求めて忙しい
そりゃあ愛し合いたいさ 寒いしな どんどん寒なっている
当たり前だ 犬の俺だってそうだ 猫のおまえは丸くなっている
それでも船はずっと北を目指している
この船にはみんな乗っているんだ
みんな でも 航路がまっしぐらに北に向いていることを
知らない 気にしていない 気にしているのは当面の寒さだけだ
その寒さをどうしのぐか 考えているだけだ
犬の俺と 猫のおまえはため息をつく
船を南に向けりゃあいいのによ あーあ
デモが起こって 船長と航海士達が譲歩に出る
白人船員に毛糸の手袋を
メキシコ人船員には白人の三分の二の給料
女性乗客には男性客と同じだけの毛布を
食堂での喫煙スペースの設置
俺はペット愛好家のおばさんの手に渡る 鎖つきだ
アル中には週末の夜だけの賭博運営権を
ホモのボーイには自室内に限り男娼行為を許す
大学教授は革命は成功した と叫んで
偉大なる勝利だと叫んで
乗客船員その夜はどんちゃん騒ぎだ あほか
一週間後 また同じことが起きる デモだ 新たな譲歩
白人船員には皮の手袋
メキシコ人船員には白人の四分の三の給料
新たに船尾に喫煙所を設置
こんな感じだ 船はずっと北に向かっている
だれも船をUターンさせて南に引き返そうとは言わない
寒さはどんどん厳しくなる そのたびに
デモが起こり 船内の設備は改善され 要求はある程度受けいられる
でももう少ししたら氷山の海だ
寒さはどんどん厳しくなって
みんなもう甲板から外を見ない
見ているとすれば世界の終わりさえロマンチックに見えちまう
できたてのカップルだけだ
船内はまるで楽園だ 退屈で怠惰で 淫らで貪欲な
俺は鎖を引きちぎって 猫のおまえと一緒に船長室に飛び込む
まっしぐらに船長の喉笛を掻き切って
航海士達をしとめて 海に捨てる
さあ みんな 船を南に向けよう
俺たちみんなで暖かい南に帰ろう
でもだれも俺たちのいうことを理解しない
俺達は 気がふれたと思われて海に投げ捨てられる
ペット愛好家のおばさんまで仕方ないって顔してやがる
これでいいのか
どうしようもないのか
気が遠くなって
目が覚めると
俺達は
白熊の家にいた
おまえらの乗ってた船は氷山にぶつかって砕けちったぜ
白熊のプーさんはこう言って
食べるものを探しに外へ出て行った
なあおかしいよなおれたち
おかしかったよな
晩ごはん何かな
アザラシなんか
食べたことないね









自由詩 遠吠 Copyright 水在らあらあ 2007-02-11 23:25:52
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