休日
水在らあらあ





南アメリカの移民たちが
今日も公園のベンチにだらだら集まり
俺は隣のベンチで
空を見ている
ぽっちゃり太った女たちと
小柄だが生活を支えてゆく肩を持つ男たち
幼いのに遠い目が澄んだ子供たち
一様に笑顔だ 服装は一様にでたらめだ
俺は空を見ている
通りの向こうでは中国人の100円ショップが賑わっている
働き者の女の子 まだ働ける年齢じゃないと思うが 
学級委員長ってあだ名をこないだつけた めがねが似合う
君のスペイン語はどこで習ったんだ
俺が醤油や豆腐を買いに行くたびに
レシピを教えてくれるがまだ試したことはない
君のお父さんはどう考えても君に負けているが
夜俺が酒を買いに行くたびにやさしい
公園を出て 駅の下をくぐるトンネルには
アラブ人のギター弾きが今日もコード四つぐらいをかき鳴らしている
それでもうまくなったもんだ それにいい声だ 
でも今日は小銭も持っていない
その隣でスペイン人のパンク二人が
空き缶で作った灰皿を売っている
彼らの服装と同じようにトゲトゲの灰皿
片方はへったくそなお手玉している
両手を広げて通せんぼするのをすり抜ける
彼らの黒くて大きな犬がそれをじっと見ている
北斗の拳の悪役そのまんまだ
でもいい笑顔だ 今日は晴れていて暖かいから
きっと楽しいんだろう
橋のたもとにはいつもどおり東ヨーロッパの女こじきが
プラスチックのカップもって体躯座りしている
歌でも歌えばいいのにと思う いつもただ座っているだけだ
顔は つらそうだ 歌でも 歌えばいいのに
その先の橋の真ん中では盲目のアコーデオン弾きが
いつもと同じようにソプラノを鳴かせている
見開いて 何も見えていない彼の目を見るたびに
かれのソプラノを聴くたびに
俺はムンクの叫びを思い出して橋から落っこちそうになる
それで少し立ち止まって
空を見上げる
噴水が日の光に虹を映しているプラサを抜けて
風のように一団となって走ってくる小学生たちに逆らって
前を行く乳母車の赤ちゃんに手を振って
旧市街前の賑わいを避けて
海に出る
冬の海辺にはたくさんの人が散歩している
犬もたくさん楽しそうに駆け回っている
俺はまっすぐに波打ち際まで歩いて
昨日なたで作った親指の傷を
キラキラしている水に浸す
空を見上げる
カモメたちが切る風の冷たさを
胸の奥に飾る
それは冴え冴えとした額縁になって
その中に母親の顔が浮かぶ
もう一度手のひらを水につけて
くびすじに当てる
どんなに水平線を睨んでも睨んでも
遠くにあるものはずっとずっと遠い
砂を一掴み 想いをこめて
風に投げる
向かい風で
全部顔にかかる

浜辺の果てのほうから
真っ赤なコートを着たおまえが歩いてくる
こんなに遠くても笑っているのが分る
俺は砂まじりのつばを吐いて
顔をぬぐいながら
歩き始める
逆方向に
振り向くと
おまえは走り始めている
俺も走る
ソーセージ犬に躓いて
転ぶ
ああもう 立ち上がりたくない
立ち上がらなくていい
どうにでもなればいい
日が 暖かい 
噛むなよソーセージ 痛いよ

おまえの足音が近づいてきて
おれのおしりを踏んで
ぐいぐい踏んで
背中の上を歩く


日が 暖かい








自由詩 休日 Copyright 水在らあらあ 2007-02-10 19:16:05
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