フレット、煙草
nm6

スライド、スライドしていく音階に、立ち止まるための目印はない。ギター、弦の上を滑ってゆくぼくらの、とめどないものを抑制する旅。そしてタブ、タブ譜を読むためのフレット、フレット。区切りをつけて、数を数えて、そうしてひとつひとつ越えていく。か、か、可能性としての上々だ。しりとりのことばが飛び越える想いの、知らないその先は終わらないようで、いつかは区切る。フレット、フレット。刻まれるリズムにしみわたるように。


「寄る夜に拠る、ヨルヨ、る、るるーる。選る因る夜。」
夜になると思い出す魔法だ。


スマート、スマートに演じるための小道具。日々を演じながらころげて、それでも些細なことを蒸し返すぼくらの、愛すべきことをアカペラする声。そして焦げ、焦げついたビロードのための煙草。区切りをつけて、数を数えて、そうしてひとつ越えていく。お、お、おんなじだ。長い長い一日の節目、それが何かを切り替えるかどうかは分からないけれど、確実にひとつ区切られていく。オレンジの大通り。照らされるリズムにくゆらせるように。


「寄る夜に拠る、ヨルヨ、る、るるーる。選る因る夜。」
夜になると思い出す。それも、たいていは光のせいだったりするんだ。




陽だまりに踏み込まれるリズムが無気力な朝に、さらわれて忘れる忘れルール、ルール。フレット。留守中は速やかにルールーと退避して、手練手管に蛇行しているのです。煙草。少なからず、ヒト科のきみはそうであるから、カメレオンのように隠れてより強い、強い強い散歩をする。フレット。ポシェットがはちきれるほど、のびてゆくたのしい植物のように。煙草。すべてが台無しにひっくり返って、ここぞとなりゆきを醸して、遅めのランチが予感したとおりのリミットを近づける。フレット。隊長、隊長。煙草。帰り支度はいりません、プリーズ。フレット、いやロシアで困難を抱えた恋人なんだ、それ真似て間違って、ぼくら結局後ろ髪ひかれる。煙草、そうだ、ぼくら天才なんだ。




フレット、煙草。フレット、煙草。
それはイクラ丼のイクラを数えていれば済む話だ。
ぼくらをここぞと区切っていって、いろいろが当然過ぎていく。
「るるーる。るるーる。」
いらいらしないで。


夜って、そりゃ、そう。
そうなんだよ。
イレギュラーな恋人の、夜になると思い出す魔法なんだ。


自由詩 フレット、煙草 Copyright nm6 2004-04-13 01:12:54
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