モラトリアム
朽木 裕

食べては吐いて、を何度となく繰り返す。それなのにどうして私は尚も食べ続けるのだろう。クリームサンドのクラッカー、ピーナッツチョコレート、苺ジャムのマシュマロにチェリーコーク。袋はどれもあいていて、中身はどれもなくなっていて。けれど胃の中にソレがあるかと云えば ない。 ないのだ。では何処にあるかと問われれば私は真っ直ぐに指をさすだろう。空虚な白いトイレの中。

東側にあるトイレには陽光が満ちていた。目を細めなければ前が見えなくなるような夥しい光の渦。しかし私は下を眺めていた。私から出た吐瀉物は渦を僅かに作り消えていく。


(あたしも 消えたい な、)


望む望まないとに関わらず明日は来る。否応なく。望まない日ばかりは明日を拒否したいものだけれど。


(そんなわけにはいかないんだよね、きっと)


きっと皆そうやって自分を納得させて生きている。人差し指と中指を口の奥深くにつき入れ内臓を掻き出す心持ちで私は明日を想った。

布団の中で一人きり、脅える。まだ大丈夫だ、まだ。外は夜の真ん中か2/3を越えた頃。息を深く吸い込んで布団の中、まだ来ない明日へのモラトリアム。


散文(批評随筆小説等) モラトリアム Copyright 朽木 裕 2007-02-07 11:08:19
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