たより
夕凪ここあ

郵便受けに
さくらの花びら

淡い水色の
小さな便箋

ゆううつの波に飲まれそうな朝のこと

春はまだ見えない
思えば今年の冬はいつもより少し長い

便箋の封を切ると
中からかすかなさくらの香り

もうずいぶん昔に
わたしたち、きっと双子だったことを
長いこと忘れてしまっていた

瞼の裏で今でも手を繋いでいる

綺麗なレースの髪飾り
揃いの空色ワンピース

互いの温度を感じるほどに
寄り添った小さなベッドで
春が待ち遠しかった

ふたりぶんの
ふたりぶんの
ふたりぶんの 日々

いちめんのやわらかい雪野原
の向こうには辿りつかない
今日も昨日もわからないほどに
十分すぎるほど

ひとりぶんの日々

あなたが見えなくなったのは
赤く染まる、初めての夜のことでした。


そんなことを思い出していると
便箋の中から吹いた春先の風が
ゆううつの波をさらっていった

翌朝
返事を出そうにも音信不通

春が待ち遠しい
双子の声を便りに

ほどなく晴れていく冬

郵便受けに
涙みたいな跡

あれは
雪解けだったのかもしれないけれど


自由詩 たより Copyright 夕凪ここあ 2007-02-07 00:19:24
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