冬の日
小鳥遊



 空が遠のくことを知る



 
 はしった
 私ははしった
 白いいきがさえずるように
 虫の音がのぼりつめるような感覚で
 校舎のすみずみを駆け上がってゆく
 ふくらはぎのうでの凛とした連動
 私の身体が燃えるようにあつくなりだす
 耳だけがつめたい





 リノリウムの床がなるのは
 かなしみではない
 斜陽のせいだ





 白いスカートのひるがえり
 廊下を階段を
 その光の帯を踏みしめるように
 わたしのまぶたは金色にたなびく
 強がるな と
 私の耳の奥が反転する
 ただ
 ただ
 私は走った 
 はしって はしって 
 絡みつく全てのものを振り落とすように
 髪が逆立ってゆく



 


 足音がこだまするのは
 寂しさではない
 降り積もった雪のせいだ






 人影もない校舎は
 やわらかに受け入れる
 薄汚れた壁も天井も
 しみついた汗のにおいも
 リノリウムには多くの足跡がつき
 誰も背を知らない






 たぐりよせてはいない
 足がもつれるほどに走れ
 目の端に零れてゆくそのスカートの面影
 蛇口の名残が音を立てる
 さぁ はやく
 さぁ はやく !
















未詩・独白 冬の日 Copyright 小鳥遊 2004-04-11 01:38:47
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