冬の日
小鳥遊
空が遠のくことを知る
はしった
私ははしった
白いいきがさえずるように
虫の音がのぼりつめるような感覚で
校舎のすみずみを駆け上がってゆく
ふくらはぎのうでの凛とした連動
私の身体が燃えるようにあつくなりだす
耳だけがつめたい
リノリウムの床がなるのは
かなしみではない
斜陽のせいだ
白いスカートのひるがえり
廊下を階段を
その光の帯を踏みしめるように
わたしのまぶたは金色にたなびく
強がるな と
私の耳の奥が反転する
ただ
ただ
私は走った
はしって はしって
絡みつく全てのものを振り落とすように
髪が逆立ってゆく
足音がこだまするのは
寂しさではない
降り積もった雪のせいだ
人影もない校舎は
やわらかに受け入れる
薄汚れた壁も天井も
しみついた汗のにおいも
リノリウムには多くの足跡がつき
誰も背を知らない
たぐりよせてはいない
足がもつれるほどに走れ
目の端に零れてゆくそのスカートの面影
蛇口の名残が音を立てる
さぁ はやく
さぁ はやく !